『裏切り』の第十七章。
目を開けて
そう、ゆっくりと……
なんにもないのに天井を見上げていた
蛍光灯が光ってた
まぶしかった
やけにまぶしく感じてた
そのとき2度目
きっと2度目
僕の心が目を明けた
そして気がつくと、なにもかもがバカバカしかった
自分のすべてをさらすことも
自分のなにかを隠すことも
突然だった
考えるようになった
後も先も見えなかった僕に
先が見えるようになったんだ
光があるのか
光はないのか
思考にプラスもマイナスもなかった頃
僕はなにも考えず
僕はなにも疑わず
僕はなにも知らなかった
僕の記憶はそのときから
僕の影はそこから伸びた
写真を見てもなにも感じたりはできなかった
それが自分だともわからない
ただそれを撮った母のぬくもりだけを感じられる
そこに刻んだ母の夢と
なにを隠して生きてきたのか
なにをさらして生きてきたのか
僕の影は光とともに伸びてきたのか
闇のなかにさらに深い闇を映す
僕の影だけが静かに伸びてゆくのか
なにをさらして生きていこう
なにを隠して生きていこう
僕を照らす光の上に
僕の影を落としてゆくだけなのか
たとえいつか離れ離れになったとしても
僕のなかには光がある
心に宿った遥かな星より尊い光
僕にそれを与えてくれた人がいる
僕が空なら星のような人がいる
星がなければ夜空はただの深い闇
星が照らす無数の光が柱となって
空が落ちないようにと支えてくれる
でもそこには影もできる
星のない日
空はきっと涙を流す
そしてそれは影の上で破片となり
光の雫がそこを濡らす
そこに伸びた影のなかにも星空はある
涙は光を想いださせる
目を閉じて
そう、ゆっくりと
まぶしすぎるいろんな光にさらされた
そう、その目をもう一度……
そこに雫があふれたままじゃ
今ある景色がにじんでしまうだけだから……
あふれた涙は流していいんだ
- 2008年10月31日 10:56
- ──── 『裏切り』
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