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裏切り : 第十三章 【 父 】
「ああ、もしもし、親父?」 「おう」 「元気か?」 「おう、元気だ。おまえはどうなのよ?」 「ああ、おれも元気でやってるよ」 「そうか。それならいいんだ」 「それならおれもいいんだ」 「なした?」 「いや、別に……」 「それだけか?」 「それだけで電話しちゃ悪いか?」 「いや、悪かないけれどよ……たまには帰ってこいよ?」 「ああ。 ……
- 2008年10月31日 10:12
裏切り : 第十二章 【 家族】
「じゃあ、拓弥にとっての “ 家族 ” って?」 ぼくの答えに、母は助手席からそう言った。ぼくにとってのそれを訊いた。 母が煙草を一本抜き取るのを見て、ぼくも同じことをした。 「難しい質問だなぁ~……」 そう曖昧に間を取ったのは、そのときぼくの心臓がなにか強い力で鷲づかみにされたように、一瞬その血液を止めていたからだった。 「& ……
- 2008年10月31日 09:57
裏切り : 第十一章 『 たったひとりのひと 』
僕のこの小さな胸は いつも伝えたい言葉であふれてしまう 必死にとめてた涙みたいに…… あなたは泣いてたね…… 笑ってもいたよね…… あなたはずっと僕の横顔を見つめてた…… 知ってるよ 僕はまっすぐになんて見れなくて あなたの瞳は 僕には優しすぎるから…&hell ……
- 2008年10月31日 09:44
裏切り : 第十章 【 後悔 】
それまでぼくは、ずっとなんだかんだともっともらしい思いつく限りの嘘をついてまで、それを断りつづけていた。 でもぼくは、その日初めて母に逢いに行った。 なにがそうさせたのはわからないけれど、なんとなく、そろそろいいかなということで承諾していた。でもなにが “ そろそろ ” なのかもわからない。 ぼくは筆舌に尽くしがたいほどの動揺っぷりを露呈してしまっていた ……
- 2008年10月31日 09:33
裏切り : 第九章 【 安心 】
もしあのとき、母と一緒に行っていたらと思うことがよくあった。むしろ、そっちのほうがよかったんじゃないかと感じることが多かった。 ぼくは母が好きだった。いつも明るい母が大好きだった。だれより優しい人だった。親だからっていうのもあるかもしれない。でも、それとは別にも優しかった。だれにも優しい人だった。 でも、ぼくは父を選んだ。 幼いながらも、セコい計算をしてたと思う。母と一緒に行 ……
- 2008年10月31日 09:10
裏切り : 第八章 【 空白 】
母からの手紙を居間の大きな棚の抽斗で見つけたのは、さらにだいぶ経ったころだった。 ぼくらのことは書いていなかった。二回読んでも、三回読んでも同じだった。 ぼくは、母のなかからぼくらの存在も消えたんだと感じた。もう泣きはしなかった。 ただ、ぼくのなかでも、なにかがすっぽりと消えてしまった。 母からぼくに宛てた手紙も届くことはなかった。 いつの間にかぼくのなかで、母のいない生活 ……
- 2008年10月31日 08:56
裏切り : 第七章 【 涙 】
いつだったか、母からプレゼントをもらったことがあった。 家に帰ったぼくらは、すぐにそれを開けた。 それを見た父は怒った。 「あいつにもらったほうが嬉しいんだろ?」 ふてくされたとかイジケたと言ったほうが的確かもしれない。 姉と二人になってから、ぼくらは話し合った。とはいっても、父に対する文句ばかりだった。母親からプレゼントをもらって何が悪いとか、どっちからもらおうがプレゼント ……
- 2008年10月31日 08:43
裏切り : 第六章【嘘】
ぼくは風邪をひきやすい。 当時も、そう思っていた。ぼくや姉が生まれたころからずっとかかりつけの病院では、そう診断されていた。 が、実際には違った。 そこから紹介されてすぐに向かった総合病院では別の病名がついたのだ。盲腸だった。それまでに2ヶ月近くかかっていた。 そのことを父は、今現在になっても不満そうに語る。もう絶対、あそこの病院には行かないと…… ……
- 2008年10月31日 08:26